波に漂う

浅~い知識で素朴な疑問や感想をツラツラと書いてます

音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む 川原繁人

 

音声学の知識ゼロの人が飽きずに読める音声学入門書。

電車内やカフェなどで読むのはお控えください。プリキュワやポケモンのキャラクター名をつい発声してしまう危険性があります。(そんな奴アタシだけ?)

あらゆる言語の発音に対応した発音記号があるらしいですが、日本語のラ行は母音によって微妙に音が違うとか。そのくだり、実際「らりるれろ」って声に出しちゃいますからね。で、なるほど~ってなります。

あと、そうなんだ~ってなったのは子音がNで終わる動詞は「死ぬ」しかないんですって。

その他もろもろ、「へ~」とか「ほ~」とか「ホントだ~」が満載で、楽しめました。

すべて真夜中の恋人たち 川上未映子

 

普段なら手にしないジャンルの本だけど、世界で最も権威のある文学賞の一つである「全米批評家協会賞」の小説部門で最終候補作品に選ばれたとのことで読んでみました。なんでも日本人作家が最終候補となるのは初めてとのこと。

そういえば同じような理由で「コンビニ人間」も読んだな。どうも私は権威に弱いらしい。いやらしいね。

読み始めてすぐ、慣れない空間で勝手がわからずオドオドする感じに陥る。

己が、効率、メリハリ、最短距離を愛する情緒のない質ゆえ、一瞬の出来事を数行かけて描写するゆったりとした流れに、「そんな細かく説明しちゃう?」って身もだえる。

重要なのはストーリーじゃないのよ、感性に触れる美しい描写なのよと言い聞かせ読み進むうち、知らず知らずと世界観に入り込んでいくという不思議な読書体験をしました。

でもこれ、英訳して伝わるのかしらん。

最後の証人 / 柚月裕子

 

 

あれ、柚木裕子さんってこんな感じだったっけ?

孤狼の血」から入って「盤上の向日葵」でなんかいいじゃんって思って、何の気なしに手に取った本作。

酒酔い運転による交通事故で息子が亡くなったにもかかわらず、公権力行使で犯人が不起訴となり、冗談じゃねーぞと立ち向かう夫婦のお話です。

序盤から色々違和感ありつつ、終盤の真相を詳らかにするくだりは、そんな証拠のない憶測だけで法廷の雰囲気ガラッと変わるもんか?ほとんど「多分こう」って内容を、検事の熱弁だけでそこにいる皆がそれを真実と受け入れるのは短絡過ぎね?と冷えていく私の胸。

真相には確かにちょっとしたひねりがあるけど、そのひねり、本作発表より前のドラマで見ましたよ。状況は違うけど、要は正しく裁かれなかった犯人を正しく裁こうとする手段の発想が一緒。

前述の2作に比べていささかお粗末な印象で、ウィキペディアで調べちゃったら、これってシリーズものなんですね。ドラマ化までされてるじゃん。上川隆也じゃん。

さらに2作どころじゃないよ。この作者、結構読んでてびっくり。「臨床心理」「パレートの誤算」「あしたの君へ」「合理的にあり得ない」

作家買い(図書館ユーザーだから正確には買ってないけど)するほど引っかかってなかったけど、書評買いで読んでたのね。本作では文句書いたけど、面白い本書く作家さんではあるのです。

読んだそばから忘れていくから、やっぱり読書感想文って大事と思った日曜の午後でした。

 

12月の読了

 

 

 

ひょんなことからパップバトルに巻き込まれた60代の母。

疎遠の息子は再婚の嫁を実家に残し行方知れず。

終盤、息子の心情吐露が、息子を持つ母には苦しくなります。

決して毒親ではない母なのに、そうか、息子ってこんなこと感じるのか。

もちろん個人差はあるでしょうけど。

ラップの情報も満載で、へぇぇ~っとなります。

 

短編集。

のっけから不穏な空気出まくってて、真相も何も、なじぇ君はおかしいことに気づかないのだ。

どのはなしも「そうだったのかー」という爽快なカタルシスは得られません。

「ヤリモク」は面白かったけど、怖すぎるんじゃー!

 

読了後もう一度読み返したくなる系のお話。

かなり終盤まで気づかなかった私はポンコツです。ミスリードには叙述トリックが使われてて、映像化は難しいかな。

私のようにSNSを全く使いこなせてない人間には???な部分もあり。

怖くてますます使えない。ふるふる。

誰かがこの町で 佐野広美著

 

 

登場人物がそれぞれに大小の古傷を持っていて、良くない事と知りながら、同調圧力や保身のために加担もしくは流されてしまった過去と、それによって科せられた代償が描かれています。

 

「良くない事」の程度は犯罪から見て見ぬふりまで。

「加担」の程度は積極的にから敢えて関わらないまで。

積極的に犯罪に加担する人たちが極端な行動に出てしまうお話を軸に、加担の程度がグラデーションとなっていて、読み手によって善悪の切り分けどころが変わってきそうです。

 

ふと自身を顧みたりしてしまう。

大きな声じゃ言えませんが、アタシにだって墓場まで持っていく話の一つや二つありますよ。でもさ、良くないことと認識しつつもやってしまった過去のない人なんているのかしらん?(誰も責めてないのに自己弁護)

 

さて、その極端な人々が、有り得な過ぎて突っ込みどころ満載の事件を起こすのですが、現実でもスッカリ異次元に入り込んで、価値観が明後日方向に行っちゃってる人々の事件って結構ありますしね。

 

主人公の真崎は、ブレーキのかけどころが大事と言います。

ま、そうね。あかんと思ったらブレーキ大事よね。

でも、スッとフェードアウトとか、放置からの忘却とか、現実は色々バリエーションあるし、必ずしも代償くらうわけでもない。

そーゆーパターンの方が今時な気がします。

 

なので、人物造形含め若干古めかしい印象の本でした。

100万回死んだねこ / 福井県立図書館

 

「なんとなくこんな感じのタイトルだったなぁ」という、ふんわりとした情報のみで図書館に本を借りに来る人々のうろ覚え集。

 

私も記憶力がだいぶアレなんでホントはあまり笑えないんですが、目次だけで涙流して笑いました。

 

図書館司書さんたちが、知識と推理力を動員して目的の本を探し出すのが素晴らしい。

正しいタイトルに添えられている、ほのぼのとした優しいユーモアも素敵です。

 

昨年家を新築した読書家の友人が膨大な蔵書のために書庫を作ったんですが、新築祝いにこの本添えてみました。

「書庫に加えてもらおうかと思って」って言ったら若干迷惑そうに

「変な本なら並べたくない」って言ってたけど、無事仲間に加えていただいたようです。

 

「ねじ曲がったクロマニョン」で笑ったあなた

さてはハルキストですね?

長い長い殺人 / 宮部みゆき

知らずに手に取ったけど、これ、宮部みゆきがデビューした年に、当初は試験的に書かれた作品なんですね。

ある殺人事件について、様々な立場の登場人物が持ち歩く財布視点で語られるという仕掛けで、刑事、少年、探偵、目撃者、死者、旧友、証人、部下、犯人の財布が登場します。

擬人化された財布には知力、聴力、視力があって、財布の見た目なりの性格もある。ただしカバンやポケットに入れられると何も見えなくなるし、遠くの声や音はよく聞こえません。つまり、財布が知ることのできる情報には制約があるんです。

 

なるほどね。

いい具合に情報隠して、徐々に真相を詳らかにしていくってことね。

 

ただ、正直その装置を巧く活用してるかと言われれば、う~んって感じ。それぞれの財布語りが有機的に繋がってるかというと、これもまた、この財布必要だった?ってのもあって消化不良気味。

そして、犯人が明かされたときの脱力感。

それじゃ「夢だったのかぁ」で何でもアリになっちゃうパターンと大差なくね?ってなりました。

 

近頃のミステリーは、伏線も回収もどんでん返しも趣向を凝らしたものが多くて(そこのみに心血注いだよね?ってのもあるけど)それに慣れちゃったのか、ひねりが無さ過ぎて肩透かしくらったような感じがしました。

ただ、ミステリーとしてはイマイチだったけど、それぞれの財布と持ち主の物語が短編集のようで、読み物としては面白かったです。

それもそのはず。最初は刑事の財布のみの短編だっだのに、評判良くて続けちゃったらしいので。

 

それで思い出したけど、湊かなえさんの「告白」もホントは最初の章のみの短編だったんじゃないかと感じたの、私だけ?